ずっと音楽に夢中

身も心も解放してくれる素敵な音楽に出会ったら、興奮さめやらぬうちに書きつづります。あれこれ書きますが、結論はすべて「音楽っていいな」です。

【ライブレポート】小沢健二「春の空気に虹をかけ」/日本武道館 2018.5.3

「北の丸アンフィシアター」ライブレポート

開演前

2018年5月3日、東京は蒸し暑かった。30分以上前に着いた武道館にはそれなりに人が集まっていたものの、まだ混雑とまではいかない。

2階席用の入り口から入って席につき、待機する。その時点で館内はすでに涼しくない。座席が埋まれば暑くなるだろうなとか、開演したらみんなヒートアップして熱がこもりそうだなとか思いながら、暑くなったら着ていた長袖のシャツをめくろうと決める。

いよいよ開演 小沢健二の声が聞こえる!

18時を回ってしばらくすると照明が落ちた。闇のなかで聞こえてくるのは小沢さんの声。
「僕の彼女は君を嫌う」「小沢くん、インタビューとかでは何も本当のこと言ってないじゃない」
アルペジオ (きっと魔法のトンネルの先) 」のラップだ。ステージにライトが当たると、小沢さんの隣には女優・歌手の満島ひかりさんの姿。二人で歌い、一気につかみにかかる。演奏中、ステージ前から無数の大きなシャボン玉が噴出。
そこへ小沢さんがリズムに乗せてメンバー紹介をする。
満島ひかりは最後まで出てくれます」
小沢健二満島ひかりスタイルで行くことが告げられる。
「シナモン(都市と家庭) 」で会場をあたため、「女子って言ったら女子の気分の人、男子って言ったら男子の気分の人は歌ってください」と言ってから「ラブリー」がはじまり、客に歌わせたりみずから歌ったりのコミュニケーションをとる。
観客の気分は高揚、またたく間に会場は盛り上がる。興奮が高まったところに「ぼくらが旅に出る理由」が続く。
スリリングなイントロで観客の手拍子がより強めに叩かれる。わーっと歓喜の声が沸き、会場の熱気はピークに。
歌がはじまると隣で満島さんはMVの歯磨き、洗顔の演技を見せる。

そして魔法的な時間へ

暗転、ステージ中央にキラキラ光が点滅し、「雨が降ってきました」と小沢さんのトークが入る。
「むかしここには武道館っていう建物があって、地下から徳川家の遺骨が発見されたことでCIAが動いて三島由紀夫金閣寺のように燃やされたっていう陰謀論が」とめちゃくちゃなストーリーを炸裂させてから、「それでいまここは野外ステージで北の丸アンフィシアターになりました」と落とす。
そんな演出のあと、「いちょう並木のセレナーデ」をゆったりと聴かせる。
次の曲までのセッティング中、客席から「小沢くーん!」「オザケン!」「小沢さん!」「オザー!」の声。小沢さん、くすっとして「これだけたくさんいると、いろんな(呼び方の)人がいるな」。
その後はしっとり聴かせる時間へ。「神秘的」「いちごが染まる」「あらし」と静かなムードが演出され、観客は聴き入る。
つづいて小沢さんから、満島さんが叩くドラムパッドで照明が切り替わることが説明され、「フクロウの声が聞こえる」へ。
演奏中、小刻みに光がチカチカ点いたり消えたりし、光と闇が交錯。それによって相反するものが共存する世界が表現される。
「戦場のボーイズ・ライフ」「愛し愛されて生きるのさ」「東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディー・ブロー」のメドレーに再び会場は沸く。
「強い気持ち・強い愛」「ある光」「流動体について」の3連発で観客の一体感を作ったと思ったら「アンコールしてください」と言い残し、小沢さんあっさり引き揚げ。

アンコール

アンコールからが本領発揮。それまではバックバンドと息を合わせている感じだったのが、小沢さんみずから先頭に立ってバンドを動かしていく。「春、空、虹!」の掛け声に合わせて「流星ビバップ」をギター弾き語りでスタート。ステージがホームグラウンドになっていく感じが見てとれる。
「春にして君を想う」ではマエストロ・服部隆之さんがピアノを弾き、小沢さんのアコギとハープなど最小限の音で演出。静かな空気のなかに肉声がくっきりと響く。
「ドアをノックするのは誰だ?」の後はアルペジオ」に合わせて観客に「おっおー」コールを要求。「おっおー」に合わせて満島さんによるナレーションでメンバー36人全員を紹介。
演奏が終わって語りかける小沢さん。
「こうして集まっても次の曲が終わればみんな散り散りに帰ってマスの中に紛れていくでしょう」
その一言に客席から別れを惜しむ声が上がる。
「でもまた会いたいと思ってます」
続けて呼びかける。
5つ数えたら生活に帰ろう!」
会場の全員で「54321
ところがカウントが終わると、2度目の「フクロウの声が聞こえる」へ。
演奏後、満島さんから一言。
「私オザケン世代じゃないんで、生卵投げつけられないか心配でした」
それに小沢さんが応える。
「僕は世代なんてないと思います。年齢とか関係なしに、『フクロウの声が聞こえる』が響いた人が聴いてくれてると思ってるから」
再度の5カウントダウン。
54321、生活に帰ろう!」
小沢さんの声が響き渡り、北の丸アンフィシアターは姿を消した。

感想

「36人編成ファンク交響楽」とは何だったのか

今回の公演でまず気になったのは、なぜ「36人編成ファンク交響楽」と銘打っていたのか。バックにオーケストラがつくのはわかるとして、そこにどう「ファンク」がプラスされるのか。いろいろ想像がふくらむ。
事前のレポートから、オーケストラの椅子が打楽器になっていて、それを叩いていたとのネタバレがあって、そういうことかと納得したのだけれど、実際に体験してみるとどうもそれだけじゃなさそうだった。
実は、メンバーとして参加していたギターの土方隆行さんが重要なポジションを担っていた。
土方さんといえば、スピッツをはじめとする多数のアーティストのライブやレコーディングに参加しているベテランサポートギタリスト。「日本のナイル・ロジャース」と呼んでいいほど骨太なカッティングを聴かせるファンクギターの名手でもある。
小沢作品では「強い気持ち・強い愛」に参加していて、土方ギターの存在がディスコ色をより濃いものにしていた。その縁もあったけれど、今回がはじめての共演だという。冒頭の紹介では、小沢さんから初共演を楽しみにしていたと語られた。
土方さんをバンドメンバーに入れた時点で、音が無理なくファンクに寄るから、交響楽とファンクをつなぐ役割としてツアーでは外せない人選だったんだろうと思う。

強い気持ち・強い歌声

演奏は流麗にしてどっしりと力強い音になっていた。
また、小沢さんの歌もいつもより力強かった。バックバンドによって力強さが醸し出されていると思ったけれど、最後まで声を振り絞って歌う姿を見ると、小沢さん自身のたくましさにバンドの音が溶けあっている印象を受けた。
ふるまい、たたずまいにも弱々しさがまったく感じられない。そんなところからも世代の壁がない音楽を届けようとしている小沢さんの意志が感じられた。


フクロウの声が聞こえる(完全生産限定盤)